【柴犬のはなし】無麻酔の歯石除去(スケーリング)はむしろ危険…|愛玩動物飼養管理士

無麻酔歯石除去(スケーリング)はむしろ危険…愛犬の口腔ケアで気を付けること|スタジオ・ボウズ 柴犬のはなし

ケアどころかむしろ危害に

こんにちは、愛犬がかわいすぎて愛玩動物飼養管理士を取得したフリーランスデザイナーのスタジオ・ボウズです。

ペットショップで買い物をしていると、こうしたポスターを見かけたことはないでしょうか?

「無麻酔歯石除去」の施術会をPRする内容で、たいてい「無麻酔のためペットへの負担が少ない」「麻酔施術より費用が少なくて済む」といったことが謳われています。

大手チェーン店でもこうしたポスターが公然と貼られておりその内容に思わず納得してしまいそうになりますが、その実態は愛犬にとってかなり危険です

ところが獣医師をはじめとした専門家からは、無麻酔歯石除去には愛犬の口の健康を守ることには全くならないばかりか、逆に危害となるリスクがあると指摘されています。

無麻酔施行除去になぜそうした指摘がされるのか、その理由について解説します。



目次
  1. 歯石除去の目的と方法
    • 歯周病予防
    • 動物病院での歯科用器具を用いた除去
  2. 動物の保護~麻酔を使う意味
    • ケガを避け痛みや恐怖を与えないために
    • 安全のための麻酔前検査
  3. 無麻酔の問題点
    • 医療的な意味がほぼない
    • 鋭利な器具でケガをする恐れ
    • 獣医師以外では、処置の適否を判断できない
    • 処置による恐怖で、口腔ケアが困難になる恐れ
    • 獣医師以外では、問題が起きたときに対処できない
  4. すでに多くのトラブル例
  5. 獣医師以外によるスケーリングは違法
    • 日本小動物歯科研究会の分析
    • 農水省の見解
  6. まとめ~愛犬の健康と命を無資格者に委ねられる?

歯石除去はきれいにするだけでなく「病気の治療と予防」

無麻酔歯石除去(スケーリング)はむしろ危険…愛犬の口腔ケアで気を付けること|スタジオ・ボウズ

歯周病予防

動物病院での歯垢・歯石除去は、歯石を取るだけでなく歯周病の治療・予防も目的としています。

多くの犬がかかる歯周病の原因は歯垢に含まれる細菌です。歯石がつくとさらに歯垢が付きやすくなるため、これら歯垢・歯石を除去・付着しないようにすることで、歯周病を予防します。

動物病院での歯科用器具を用いた除去

超音波スケーラーという歯科用器具を使い、歯垢・歯石を取り除き、歯周ポケットの中まできれいに洗浄。さらに歯石を取っただけでは表面がざらざらして歯垢が付きやすい状態のため、研磨して表面をなめらかにします。

動物の保護~麻酔を使う意味

ケガを避け痛みや恐怖を与えないために

こうした歯石除去の処置は30分から数時間かかります。当然、人と違って犬や猫は処置の間じっとしてはくれません。

口を開けさせるために押さえつければ、犬や猫にとっては苦痛や恐怖です。またスケーリングで使用する先端が鋭利なため、急に動いたら口腔内を傷つける恐れもあります。

動物病院での歯垢・歯石除去で全身麻酔をかけるのはこうした理由から。施術中の痛みや恐怖を与えることなく安全に治療を行い、ひいては動物の保護につなげています。

安全のための麻酔前検査

全身麻酔は、確かにゼロリスクではありません。

特に10歳以上の高齢、パグ・フレンチブルドッグなど鼻の長さが極端に短い短頭種、心臓・呼吸器・腎臓の各疾患、肝機能障害、肥満などを抱えているとリスクが高まります。

より安全な麻酔のために、施術1週間前を目処とした麻酔前検査を行います。



暴れたらケガの危険…トラブル時に対応できない…無麻酔の問題点

無麻酔歯石除去(スケーリング)はむしろ危険…愛犬の口腔ケアで気を付けること|スタジオ・ボウズ

近年、「無麻酔のためペットへの負担が少ない」「麻酔施術より費用が少なくて済む」といったキャッチコピーの「無麻酔歯石除去」サービスを多く見かけます。そこでは獣医師ではなく、トリマーなどが処置を行うケースも多いようです。

しかしこうした無麻酔の処置は、獣医師ら専門家からリスクがある指摘されています。具体的にどういったリスクがあるのでしょうか。

■医療的な意味がほぼない

スケーリングは単に歯の見た目をきれいにするだけではなく、歯間や歯周ポケットを洗浄することで、歯周病を治療・予防する医療的目的もあります。無麻酔ではこうした行き届いた処置ができず、歯周病のケア・予防にはつながりません。

またハンドスケーラーによって表面の歯石を削り落とせば、見た目がきれいになるかもしれませんが、歯の表面がでこぼこになり、かえって歯垢が付きやすくなる恐れがあります。

■鋭利な器具でケガをする恐れ

処置で使用するスケーラーは先端が鋭利です。無麻酔で処置しているさなかに暴れれば、口腔内を誤って傷つけてしまう恐れがあります。処置が結果的にペットに危害を加えることになりかねません。

■獣医師以外では、処置の適否を判断できない

トリマーなど獣医師ではない処置者では、スケーリングを行うことが適切かどうか正しく判断することはできません。これでは処置が健康上のリスクにつながりかねません。

■処置による恐怖で、口腔ケアが困難になる恐れ

処置中に感じた恐怖や不快感で、口を触られるのを嫌がるようになる恐れがあります。歯磨きや定期的な歯のチェックなど普段の口腔ケアが難しくなり、病気予防の妨げになります。

■獣医師以外では、問題が起きたときに対処できない

処置中に誤嚥などトラブルに見舞われた場合、獣医師以外ではそれらに適切に対処できません。これら問題に対処できなければ、処置後に命に関わる疾患につながる恐れがあります。

すでに多くのトラブル例

獣医師らでつくる日本小動物歯科研究会が2019年に実施したアンケート調査では、下記のようなトラブル例が報告されています。

  • 歯科関連
    • 歯周病の改善が見られない・悪化した
    • 口の周りを触らせなくなった
    • 口腔内粘膜の損傷や出血
    • 下顎骨の骨折
    • 歯の破折
  • 歯科関連以外
    • 股関節脱臼、椎間板ヘルニアの発症
    • 四肢の骨折
    • 処置後に心不全、腎機能低下、食欲不振
    • 誤嚥性肺炎、細菌性肺炎
    • 性格が攻撃的になった など

出典…無麻酔での歯垢・歯石除去とデンタルケアを目的とした製品による歯の併発症に関するアンケート結果(PDF、日本小動物歯科研究会)

獣医師以外によるスケーリングは違法

無麻酔歯石除去はトリミングや爪切りなど普段のケアの1種、歯磨きの延長だと捉える考え方もあるようです。しかし口腔を傷つけるリスクのある器具を用いた処置は高度な技術を要し、日常ケアのひとつとするには無理があります。

専門家や所管官庁からも否定的な見解が提示されています。

日本小動物歯科研究会の分析

しかし上記の、日本小動物歯科研究会ではアンケート結果を以下のように分析され、現状への危機感をあらわにしています。

「飼い主の間に無麻酔による歯垢・歯石除去を受け入れる素地がある(中略)獣医師側から、このような行為の危険性が十分に伝えられていないことも推測される」

「無麻酔での歯垢・歯石除去は大変に危険な行為であり、(中略)獣医歯科診療を提供する施設のすべての人々が、この現実を十分に理解すべきであると考える」

出典…無麻酔での歯垢・歯石除去とデンタルケアを目的とした製品による歯の併発症に関するアンケート結果(PDF、日本小動物歯科研究会)

農水省の見解

獣医師を管轄する農林水産省では、下記のような見解のようです。

つまり鋭利なスケーラーを使用しての歯石除去は口腔内を損傷・出血させる可能性があり、処置は法律上「診療」と解釈され、獣医師以外のトリマーらがこれを行うことは獣医師法違反に当たる、ということになります。

「歯垢・歯石除去の際に出血などの危害を及ぼす恐れのある行為は診療業務に相当する」

出典…ペットサロンに於ける無麻酔歯石除去について(法律上の観点から)(21動物病院)

日常ケアや美容の一環という名目で、獣医師以外が無麻酔歯石除去の処置をすることはかなりグレーであると言えるでしょう。一方で罰則がなく違法状態が放置されているのが現状で、動物愛護の観点でも問題がありそうです。



まとめ~愛犬の健康と命を無資格者に委ねられる?

冒頭のポスターを再掲。ワンコを抱っこした女性がにこやかに微笑んでいる写真が添えられています。屋号と氏名は掲載されていますが獣医師でないことは明らかで、トラブルに見舞われたとしても、素性の知れないこの処置者を責任に問うこともできません。

麻酔は危険で無麻酔は安全といった根拠のないイメージのもとでの無責任な商売という感じ。無麻酔歯石除去のリスクを知ってから、薄ら寒い思いをするようになりました

手軽・費用が安く済む・歯石だけ取れればいいといった判断は結果として愛犬を危険にさらすことになりかねず、トラブルが起きたときの対処も困難にさせます。

本来高度な技術が必要とする施術とひいては愛犬の健康や命を、無資格者に委ねるということに他なりません。そのことを今一度考るべきではないでしょうか。

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