男性の目線からジェンダー平等をアピールする団体「チェンジングメン」の活動に関わっている。団体のロゴデザインも担当した。
同団体は「ジェンダー平等を男性の自分事に」を謳う。とかく女性のためとされがちなこのテーマだが、その片翼は男性にある。ジェンダー不平等は往々にして、対男性の関係から生じるからだ。
ジェンダー平等を男性の自分事化するには「男性の変化」が必要というコンセプト。ターゲットも男性がメインだ。
そこでデザインは、旧来からの男性らしさをイメージする「ベタな男性的デザイン」の枠組みから外れることを目指した。そしてそれは、結果的にジェンダーとデザインの関係性を見つめる作業となった。
男性向けデザインからの脱・定型
男性向けのデザインの特徴は、下記のような要素が挙げられる。
- 重厚感のある太いタイポグラフィ
- 彩度を落としたトーン
- 直線的・堅牢なフォルム
しかし今回のデザインで目指したのは、それら力強さの誇示ではなく、変化を受け入れるしなやかさである。
完成品。モチーフは蝶
シンボルマークには、蝶をモチーフと選んだ。かわいらしさや美しさで女性的と分類されがちだが、さなぎから成虫へと姿を変えるそのプロセスは「大きな変容」という意味を持つ。
またあえて「男らしくない」とされる蝶を配することで、男性にまとわりつく記号・ラベリングを引き剥がす試みとした。
男性を意識してカラーは少し彩度を抑えつつ、派手になりすぎない程度の色数に。かといって寒色系や暗青色(明度や彩度が低い色)といった男性的カラーリングを避けた。
下は最初のシンボル案。静的で、いささか大人しく収まっている印象があるため、触覚や羽を引き伸ばし躍動感・飛翔感を加えた。カラーも明るい雰囲気を加えるため彩度を上げた。
ボツ案
余談だが、計3案制作した。ボツのラフ2案は、どちらかというと従来型男性向けのデザインである。
左は男性のシルエットを配したオーソドックスな案。「男性のアップデート」を図案化した。しかし年齢などの属性をイメージさせるため、全年齢を対象とするなかにあっては、あまり適切とは言えない。
右はビジネス寄りに振った案で、団体名のイニシャル「C」と「M」を階段状に図案化したもの。直線的・幾何学的で有機的ではない。これも従来型の男性的デザインに近い。
これらは、あえて狙って制作した。結果的にボツになったが、男性的だからと否定されたわけではない。不正解ということもでもない。この団体の目指すところにふさわしいかどうか、その評価軸から選ばれなかったのである。
バイアスを全否定できないデザインの限界と誠実
しかし、いかにも男性向けのデザインから脱する、と繰り返しても、そこには限界がある。ジェンダーバイアスからの離脱とは聞こえがいいが、危うさもはらむ。
デザインは、本質的に人々の先入観やステレオタイプに訴えかける行為だ。
ある形が「優しい」、ある色が「冷たい」と感じるのは、私たちが共有する文化的なバイアスがあるからに他ならない。それらを無視したデザインは(可能性としてはあり得るが)、コミュニケーションとしての機能が失われ、意図が届かない落とし穴に落ちる。いわゆる「デザインの敗北」と言われる現象である。
バイアスやステレオタイプを全否定するのではなく、それを理解した上で「どこかを少しだけ外す」微調整。この「わずかなズレ」こそ、別の視点を提示するための、デザイナーとしての誠実な態度だと思っている。
選択肢と可能性を増やす
ジェンダーバイアスの何が問題か。ひとつは選択肢の少なさだと思う。
転職市場が活況で、巷にはその広告があふれる。目に飛び込んでくるのはスーツを着た男性がほとんど。私はスーツを着ない仕事をしている。だからといって存在が忘れ去られているようだなどというナイーブな感覚があるわけではない。それでも、いささか息苦しさは感じる。
「メインターゲットがホワイトカラー男性だから」という合理的な解はわかる。だが実際には女性も、普段スーツを着ない仕事の人も等しくキャリアを模索しているはずである。その多様な現実が、ひとつの記号の中に埋もれてしまっている。
「こうあるべき」という強いメッセージより、「こういうのもあっていい」という緩やかな選択肢。正解をひとつに絞らず、グラデーション豊かな選択肢を描き出すこと。このロゴがその一端を担えればと思っている。


